「3,000万円特別控除」は、自宅の売却益のうち最高3,000万円まで所得税・住民税が非課税になるというとてもおトクな制度です。

通常、不動産を売却すると、売却益に対して約20~39%という多額の税金がかかってしまいます。この無駄な税金を回避するために、3,000万円特別控除の仕組みと対象となる要件についてあらかじめ理解し、申請を絶対に忘れないことが重要です。

3,000万円特別控除は、正式には居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例といいます。

まず、「3,000万円控除」の仕組みと、適用するための条件を解説します。

1-1.「3,000万円控除」を使えばおトクになる!

自宅(不動産)を売却したときに出た利益は「譲渡所得」と呼ばれます。通常、この譲渡所得には、所得税と住民税がかかります。
しかし、3,000万円特別控除が適用されれば、譲渡所得が発生しても3,000万円までは税金がかかりません。

なお、譲渡所得は、売却価格から購入時にかかった経費の総額、建物の減価償却費などをさし引いて算出します。

税額=課税譲渡所得×税率
課税譲渡所得=譲渡価格-(※取得費用+※※譲渡費用)-特別控除(3,000万円控除等)

※取得費・・・土地購入代金、仲介手数料、登記費用、印紙税など
※※譲渡費用・・・仲介手数料、印紙税、測量費用、取壊し費用など

つまり、「特別控除」として、3,000万円特別控除が適用され、譲渡所得がゼロ以下となれば、譲渡所得に税金はかかりません。

なお、譲渡所得にかかる、所得税と住民税の税率は、以下の通りです。

所得の種類所有期間所得税率住民税率合計
短期譲渡所得5年以下30%(復興特別所得税0.63%)9%39.63%
長期譲渡所得5年超15%(復興特別所得税0.315%)5%20.315%

※不動産の購入日から譲渡した年の1月1日までの期間(所有期間)によって、税率が変わります。
例:2017年4月不動産購入→2022年5月売却の場合、「所有期間」は4年(2022年の1月1日までを数えるため)。

もし、所有期間が5年以下で譲渡所得が3000万円の場合、その約4割、1200万円が税金として差し引かれてしまいます。しかし、3,000万円特別控除が適用されていれば、税金はかかりません。

つまり、自宅売却で譲渡所得が出た場合、絶対に忘れてはいけないのが、3000万円特別控除なのです。

不動産売却塾 コラム

3,000万円控除適用時の税金シミュレーション

3,000万円特別控除が適用されると、支払う税額に大きな差が出ます。

【譲渡所得にかかる税額】
譲渡所得所有期間税額3,000万円特別控除
適用時の税額
1,000万円5年以下約396万円0円
1,000万円5年超約203万円0円
3,000万円5年以下約1,188万円0円
3,000万円5年超約609万円0円
5,000万円5年以下約1,981万円約792万円
5,000万円5年超約1,015万円約406万円

譲渡所得の金額によっては、1,000万円以上もの節税が見込めます。そのため、不動産売却時には、3,000万円特別控除の申請を忘れないようにしましょう。


1-2.「3,000万円控除」を使うための条件

「3,000万円控除」を利用するためには様々な条件があります。

<主な条件>

  • 自分が今住んでいる土地や家である。
  • この特例を受けるためだけの目的として入居した家ではない(節税対策ではない)。
  • 別荘など娯楽や保養のための家ではない。
  • 売った年の前年および前々年に3,000万円の特例控除など他の特例を受けていない(3年に一度しか使えない)。
  • 住まなくなってから3年経過した年の12月31日までに売却している。
  • 売る相手が配偶者や兄弟といった、生計を一つにする親族ではない。

特に、マイホームから既に転居している場合には、「住まなくなった日から3年目の年末までに家屋を売却する」という期限にご注意ください。

その他の詳しい要件は国税庁ホームページで確認できます。

参考:“No.3302 マイホームを売ったときの特例”. 国税庁. (参照2024-04-18)

1-3.マイホームを取り壊したときは土地のみでも使える

マイホームを取り壊して土地を売却したときにも、3,000万円控除を使えるケースがあります。

<主な条件>

  • 取り壊し後1年以内に譲渡契約を締結すること。
  • 居住の用に供さなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却。
  • 売却までの間に土地を貸していないこと。

建物は取り壊さずに敷地の一部を売却した場合や、居住用の土地より庭や駐車場の方が広いといった場合には3,000万円控除は使えない可能性があるため、税務署にご確認ください。


2.注意!住宅ローン控除と3,000万円控除は併用できない

注意!住宅ローン控除と3,000万円控除は併用できない

「住宅ローン控除」と「3,000万円控除」は、同時に使うことができません。

「3,000万円特別控除」は他の税制優遇と併用できないものが多いので注意してください。

    「3,000万円特別控除」と併用不可
  • 住宅ローン控除
  • マイホームの買換え特例
  • マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例
    「3,000万円特別控除」と併用できる
  • 10年超所有軽減税率の特例

2-1.「3,000万円控除」の前後2年間は「ローン控除」が使えない

「3,000万円控除」の適用を受けると、その前後2年間は「住宅ローン控除」が利用できません。

「3,000万円控除」の前後2年間は「ローン控除」が使えない

「住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)」は、住宅ローンを借りて自宅を購入した場合、年末のローン残高に応じて税金が還付される仕組みです。

自宅を売ってすぐに買い替える場合は、「売却した旧宅に3,000万円控除を使って、新居について住宅ローン控除を使う」ということができない仕組みとなっています。

特例をいったん使ってしまうと後から修正できないので、マイホームの買い替え時には、どちらを使ったほうが得なのかシミュレーションする必要があります。

譲渡所得(売却益)が少額なら、3,000万円特別控除を使わずに、新居について住宅ローン控除を利用したほうが税金面で有利になる場合があります。

2-2.「買換え特例」「損失の損益通算」も併用できない

「3,000万円特別控除」は、前年、前々年に「マイホームの買換え特例」「譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていると使えません。

つまり、これらは3年に一度しか使えないということになります。

2-2-1.【併用不可】買い替え特例

「買換え特例」と「3,000万円特別控除」は併用できず、前年、前々年に特例を受けていると使えません(3年に一度しか使えない)。

買い替え特例は、マイホームを売却し、新たにマイホームを購入した際、売却したとはみなされず、譲渡所得への課税は新しいマイホームを売却するまで先送りすることのできる特例です。

分かりやすく言えば、前の家でかかるはずだった税金を、新しい家を売るまで「先延ばし」にするということです。

2-2-2.【併用不可】特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除

「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」と「3,000万円の特別控除」も同時に利用することはできません。

こちらは、住宅ローンのあるマイホームを、ローンの残債を下回る金額で売却して、赤字(譲渡損失)が出た場合に、損失分に応じて控除(損益通算)できる特例のことです。

つまり「マイホームを売却しても住宅ローンが残ってしまう場合、赤字分を給料所得や他の所得から差し引いていいですよ」という特例です。

赤字(譲渡損失)が出て、かつ住宅ローンが残っているときに適用できます。

2-3.「10年超所有軽減税率の特例」は併用できる

「10年超所有軽減税率の特例」は「3,000万円特別控除」と併用が可能です。

「10年超所有軽減税率の特例」は、居住用の不動産を売却した場合に、その不動産の所有期間が10年以上なら譲渡所得にかかる税率が低くなる特例です。

通常の5年超の「長期譲渡所得」では約20%の税率ですが、10年超所有軽減税率の特例を利用すれば約14%まで節税できます。

このように、3,000万円の特別控除と併用できる制度とできない制度があるので、状況に応じてベストな方法を選ぶことが大切です。

どの制度を利用すればよいのか迷うときには、税理士、税務署に相談すると安心です。

税理士事務所と提携しているような不動産会社に依頼し、税金面も考えながら売却するのもおすすめです。

3.3,000万円控除の手続きと必要書類

3,000万円控除の手続きと必要書類

3,000万円控除を使ったら確定申告が必要です。

いつ、どのような手続きをすればよいのか見ていきましょう。

3-1.マイホーム売却の翌年に確定申告を行う

3,000万円控除を使うときには、売却の翌年の2月16日~3月15日頃に確定申告を行いましょう(土日の関係で期限が変わることがあります)。

3,000万円控除を使い納税額がゼロになる場合も確定申告は必要なのでご注意ください。

申告については税務署や無料相談会場で相談できるので、余裕をもって準備することをおすすめします。

申告手続きが難しいときは、税理士に確定申告を依頼することもできます。

3-2.必要書類

3,000万円控除を適用するための確定申告の主な必要書類は次のとおりです。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
    →税務署や国税庁ホームページなどで入手が可能です。相談会場では用意されていることが多いです。
  • 戸籍の附票(今までの住所が記載されている)の写しなど
    →住所が異なるとき
  • 売買契約書コピー(購入時と売却時)、費用の領収書(購入時と売却時)

確定申告では見慣れない書類が必要となり、集めるのに時間がかかるかもしれません。
また、物件や状況によって必要な書類も変わってくるので、期限に余裕を持って税務署や無料相談会等で確認しておきましょう。

4.相続した家に使える「3,000万円控除」とは

相続した家に使える「3,000万円控除」とは<

親が住んでいた実家を相続して売却した場合、一定の要件を満たせば、譲渡所得金額から3,000万円までを控除できます。

これは、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例といって、一般的な「3,000万円控除」とは別の制度です。

自宅の場合と相続した家の場合では適用要件が違うのでご注意ください。

家屋を取り壊して更地にして売却した場合も対象です。

    <主な条件>
  • 売却した方が、相続または遺贈により被相続人居住用家屋及び土地を取得した。
  • 被相続人(亡くなった方)が相続開始直前まで住んでいた。
  • 譲渡価格は1億円以下である。
  • 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築された家屋である。
  • 相続開始の日から3年目の12月31日までに売却すること。
  • 2027年(令和9年)12月31日までに売却すること。
  • 取り壊した場合にはその敷地を賃貸していないこと。

なお、相続直前に居住していなかった場合でも、老人ホームに入所など一定の要件を満たせば対象になります。

その他の要件は国税庁ホームページでご確認ください。

参考:“No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例”. 国税庁. (参照2024-04-18)

この特例は、相続開始から3年目の年末を過ぎてしまうと適用できなくなります。

古い家の売却には時間がかかる場合もあるため、早めに売却活動に着手しましょう。

すでに空き家となっている家を所有している方も、固定資産税高騰のリスクなどもあるため早期の売却をおすすめします。

「3,000万円控除」に関するよくある疑問

「3,000万円控除」に関するよくある疑問

ここからは、3,000万円控除に関する疑問に徹底的にお答えします。

5-1.売却益が3,000万円までなら確定申告は不要?

3,000万円特例控除を利用するには、売却の翌年に確定申告が必要です。誤解しやすいのですが、3,000万円まで自動的に非課税になるわけではありません。

3,000万円控除を使うと納税額がゼロになる場合でも確定申告をする必要があります。

税務署のほうから「3,000万円控除の適用が受けられる」といったお知らせは来ないので、自分で手続きをするかどうか決める必要があります。

住宅ローン控除と3,000万円控除のどちらを適用したほうが有利かなど、わからないときは税務署に直接問い合わせたり、税理士にアドバイスをもらうようにしましょう。

5-2.自宅を賃貸しても3,000万円控除は使える?

マイホームに住まなくなってから3,000万円控除を使うには、3年目の年末までに売却するという期限があります。売却まで建物を貸していたとしても、この期限までに売れば3,000万円控除は使えます。

とはいっても、「普通借家契約」で貸してしまうと、オーナーの都合で売却前に立ち退きしてもらうことは、とても難しいので要注意です。

売却まで期間限定で賃貸に出したいのなら定期借家契約(更新のない契約)で貸す方法もあるので、不動産会社に相談してみましょう。

なお、建物は賃貸しても要件に当てはまりますが、取壊し後の土地を賃貸すると3,000万円控除の要件から外れてしまうので気を付けましょう。

5-3.自宅を取壊しても大丈夫?

家屋を取り壊して土地のみを譲渡した場合であっても、要件を満たせば3,000万円控除を適用できます。

ただし、条件が細かいので、取壊しするかどうかは不動産会社などに相談してから慎重に決めることが大切です。

取り壊しから1年以内に売買契約を結ばなければならないので、買い手が決まってから取り壊したほうが安心です。

また、古い建物でもそのまま売ってほしい方がいるケースもあるので、取り壊しは慎重に決めましょう。

なお、取り壊し後に土地を人に貸してしまうと3,000万円控除が使えなくなるという点にもご注意ください。

5-4.単身赴任していたときでも3,000万円控除は使える?

単身赴任していたときでも3,000万円控除は使える?

本人がマイホームに居住していなかった場合でも、3,000万円控除の適用が認められるケースはあります。

例えば本人が転勤や療養などの事情で、家族と離れて単身で生活していた場合に、単身赴任などの事情が解消したときには家族が住んでいる家屋で一緒に生活すると認められる場合は適用可能です。

なお、家屋を売った方が2つ以上マイホームを所有していたときは、売った方が主に住まいに使っていた家屋だけが特例の対象になります。

5-5.共有名義の場合は?

家の名義が複数名の共有となっている場合、共有者全員まとめて3,000万円の控除というわけではなく、共有者一人につき最大3,000万円まで控除されます。

したがって、夫婦共有名義の家を売却した場合などは、それぞれが確定申告を行う必要があります。

5-6.店舗併用住宅の場合は?

建物の一部が店舗になっている場合も、3,000万円控除の対象となります。

ただし、3,000万円控除の特例が適用されるのは自身の居住のために使用していた部分に限ります。

確定申告の際は、床面積などがわかる資料を持参し、計算式に当てはめて算出します。

その際、物件の90%以上が居住用なら全体を居住部分とみなして3,000万円控除の特例を受けられます。

5-7.土地と建物の所有者が異なるときは?

土地と建物の所有者が異なるときでも、以下の要件すべてに当てはまるときは3,000万円控除の対象となります。

  • 土地と建物を同時に売却すること。
  • 土地と建物の所有者が親族関係にあり、生計を一にしていること。
  • 土地と建物の所有者が一緒にその家に住んでいること。

例えば、建物が夫の名義、土地が妻の名義といったケースが考えられます。特別控除額は、土地と建物の所有者を合わせて3,000万円までになります。

6.税金で後悔しないためにも売却は早めに動きだそう

税金で後悔しないためにも売却は早めに動きだそう

3,000万円控除を使うには、一定の条件があります。

例えば、空き家になってから3年目の年末までに売却しないと、3,000万円控除を適用できなくなります。

特に、売却するまでに時間がかかりそうな場合や、賃貸や取壊しを迷っている場合は、信頼できる不動産会社に早めに相談して今後の方針を考えた方がよいでしょう。